不壊の槍は折られましたが、何か?

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幽霊船―グイン・サーガ外伝3/栗本薫

幽霊船―グイン・サーガ外伝(3) (ハヤカワ文庫JA)

幽霊船―グイン・サーガ外伝(3) (ハヤカワ文庫JA)

 ヴァラキア公の弟に危害を加えてしまい、町にいられなくなったイシュトヴァーンは、カメロンの船に乗せてもらって外洋に出る。だがその途中、彼らは思わぬ怪物の襲撃に遭って……。
 外伝3巻目の本書は、イシュトヴァーンの若き日の冒険を描いている。本編よりも遥かにファンタジー色が濃いのが特徴で、敵はいかにも怪物らしい怪物(死体を操るクラーケン!)、神秘的な武器、ヴァイキングの美女が登場し、かなりストレートな冒険譚が打ち出されている。少なくともサーガ初期においては、このようなエピソードは外伝に集中されているのだろうか。なおクラーケンは外宇宙から飛来したことが仄めかされており、世界の奥行きを感じさせる。
 面白いのは、イシュトヴァーンやカメロンのキャラクターが比較的シンプルなものにまとまっている点だろう。即ち、前者ははねっかえりの強い元気な若造、後者は頼りがいのあるこれまた元気なおっさんということで、基本的には明るく振舞う。本編(『幽霊船』刊行当時、本編は第12巻まで進んでいる)のイシュトヴァーンやカメロンは、人格にリアリスティックな翳りがあるので、この種の造形はかえって新鮮に映った。また、イシュトヴァーンが、ヒロインのニギディアに関して最後につぶやく「俺はあいつに惚れていたわけじゃない……」系の発言を、本音と捉えるか強がりと捉えるかで、読後感が全く違ってくるはずだ。いずれにせよ哀愁が漂うんですけれどね。
 というわけで全体的にはそつなくまとまっているのだが、ストーリー展開は一直線で、細部に捻りが入るわけでもない。正直、「人気キャラクターの若き日の活躍が見れる!」以上の意味を見出すのはなかなか難しかろう。