栗本薫追悼特集号(SFマガジン)
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/07/25
- メディア: 雑誌
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まず小説としては《グイン・サーガ》の原型となった「氷惑星の戦士」、リリカルなSF短篇「遙かな草原に……」が再掲されている。加えて、中島梓名義でのヒロイック・ファンタジー論「語り終えざる物語」(何と暗示的なタイトルであることか!)も載っており、作家+評論家としての彼女の業績が偲べるようになっているのだ。また追悼コメントを出すメンバーも豪華。五十音順に新井素子、鏡明、笠井潔、川又千秋、久美沙織、図子慧、高千穂遙、田中勝義、難波弘之、ひかわ玲子、三浦建太郎、若林厚史である。しかも新聞で出るような通り一遍の短いものではなく、各人1ページ丸々費やしての長めのものがほとんどで、コメンテーターの肉声がよく伝わって来るのだ。この他に、作品に対する評論コーナー(執筆者は小谷真理、風野春樹、柏崎玲於奈、笹川吉晴、巽孝之)があって、そして巻末には、小説や評論のみならず舞台や音楽も含めた、栗本薫/中島梓の全仕事リスト*1がある。
栗本薫は、「自分は結局SFに受け容れられなかった」という趣旨の、聞いた方もちょっと困ってしまう発言をしたことがある。これだけのせいでもなかろうが、SFファンの特にコア層の多くが栗本薫を等閑視していたし、また栗本ファンの多くは必ずしもSFファンではなかった。SFマガジンの固定読者の中には、「一号丸ごと費やして、いかに追悼とはいえ、今更栗本薫を取り上げて誰か得をするのか」と言う向きもあるだろうし、一方で栗本ファンは、SF専門誌で追悼特集を組まれることに違和感を覚えるかも知れない。
しかしこの号には、本物の弔意が込められている。何より、皮肉で嫌味ったらしいことを故人に対して言うライターは皆無なのだ。またそれは、SFに対して栗本薫がどのような足跡を遺し、SFサイドからいかに敬意を払われていたかの生々しい証拠でもあるだろう。昨日今日グインを読み始めたようなポッと出の読者がこういうことを言う資格は本来ないのだが、それでもなお強く宣しておきたい。本号は、栗本ファンならば必携である。
なおこの号の「大森望の新SF観光局」は、栗本薫については特に触れていないものの、2009年7月の星雲賞授賞式の席での、伊藤計劃のご母堂の受賞コメントが紹介されている。ご存知のとおり、伊藤計劃は2009年3月に亡くなっており、これはその代理受賞なのである。「本日は、息子が天国に行っておりますので、わたくしが代理として来させていただきました」から始まるスピーチは、何というかこう、とてもやり切れない思いにさせられる。ここ数年はまだ若い人が死に過ぎる。