不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

2010年宇宙の旅/アーサー・C・クラーク

2001年宇宙の旅』の続編である。連絡を絶ったディスカバリー号を回収すべく、フロイド博士を含むアメリカ・ソ連の共同チームは、木星を目指す。しかしディスカバリー号を狙って秘密裏に出発した中国の宇宙船が、フロイド博士らに先んじて木星軌道に到着する模様であることが判明し……。
 と言っても、国際社会の緊張がメインに語られるわけではない。そういった仮想ルポはクラークの関心の埒外にあり、ディスカバリー号回収に絡む問題はかなりさらりと解決・解消され、その後クラークは《壮大なランドスケープ》造営に注力する。それらは話がもう少し進んだ所で出て来るため、上記粗筋では触れなかったが、起きた事象のスケールは『2001年宇宙の旅』を超えており、人類はまたもやモノリスの科学力を見せ付けられることになる。とはいえ、今回生じる出来事の数々は、『2001年宇宙の旅』ほどには魔法*1めいていない。人類が既に知っている科学理論の範疇で理解し、推測できるからだ。これを退歩ととるのは早計だが、登場人物の肉付けを前作より豊かにおこなっていることを考えると、本書が普通の小説に近付いていることは間違いない。ボーマンとHALの擬人化が過ぎているのは残念である*2
 というわけで本書はやや悪い意味で平易になった気もするが、名著『2001年宇宙の旅』での積み残し事項に落とし前を付けるのがメインである以上、こうなるのは必然であるし悪いとばかりも言い切れまい。本書も十分面白いので、『2001年宇宙の旅』のその後が知りたい人にはおすすめしたい。

*1:この「魔法」とは、「高度に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」と言った場合における「魔法」を意味する。

*2:ボーマンを「擬人化」と言うのは変かも知れないが、この場合はそう言わざるを得ないのである。