不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

おれは誰だ?/ボブ・ショウ

 小説の主人公に「おれは誰だ?」と訊かれても困ってしまうわけだが、本書の主人公ウォレン・ピースは実際自分が誰だかわからない。話はいきなり彼の軍隊加入時点から始まる。この時代、従軍希望者は、戦闘行為に不要な記憶を一時的に消してから入隊することになっているらしい。ウォレンもその施術を受けたとおぼしいが、なぜか彼だけ全ての記憶を失ってしまったようなのだ。抗議するウォレンだったが、いかんせん記憶がまるでないし、「記憶をなくす前の自分」が書いたらしい誓約書の提示を受けたこともあって、渋々軍隊に入ることになる。
 この軍隊生活(宇宙戦争もの。敵はロボット兵とかです)がしっちゃかめっちゃかで、ミリタリーSFのパロディと言っても良い感じに仕上がっている。人も死ぬけどあんまり深刻な雰囲気にならんしなあ。そして主人公の過去に関係がありそうな都市が出て来た後、話は急展開して、今度は超人SFや次元SFめいた展開が――ぶっちゃけ種々雑多に――交錯するようになるのだ。しかし相変わらず本質的にはパロディの範疇にとどまり、ジャンルなり主人公の人間性なりにガチで踏み込んでくることはない。
 本書は基本的には、軽いノリで読み解くべき作品であり、真剣・深刻な要素はついぞ見られない。結末も実にあっさりしたものである。しかしでは駄作かというとそんなことはない。かなり楽しく読めてしまうのである。こういう作品は、さすがに貴重とは言えないが、面白いからいいじゃないかと思う。正直、ボブ・ショウの既訳5作の中で優先順位は一番低く*1、ゆえに復刊の可能性は限りなく低い。安く見つけたら買っておいてもいいのではなかろうか。
……にしても、こんだけぶち込んでおいて230ページか。整理整頓能力が高い作家なんだなあ。

*1:私は現時点で5作品とも読了してます。