エア/ジェフ・ライマン
- 作者: ジェフ・ライマン,古沢嘉通,三角和代
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/05/23
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 46回
- この商品を含むブログ (26件) を見る
本書最大の特徴は、メイがほとんど常に視点人物の位置に立つということだ。彼女の中では博愛精神と崇高な使命感、そしてエゴイズムが完全に同化している。独立不羈の精神と老婆の災害予知に対してメイが示す強烈なこだわりは、「それはそれで尊重する」などと冷静に反応するのが大人の読者であることは重々承知しつつ、それでも「妄執」というイメージが先立ってしまった。ゆえに、私はこれを読みながら「実際にメイが隣にいたら……」などと考えてしまったのである。その瞬間、「小説を十全に楽しもうとした読者」としての私は敗北したのである。
作者自身が「マンデインSF」と主張するだけあって、本書は全編にわたり、人間ドラマが確固として息づいている。リアリスティックな小説作法によって小説としての解像度は非常に高くなっているが、それだけにより一層、主人公の「おばさん」ぶりが際立つ。新風と旧習が争う構図自体は読み応えたっぷりであり、全体としても非常に出来がいい小説である。だから後は、主人公の人物造形をどう捉えるかが好悪の分かれ目になるだけだ。
ただし、胃での妊娠だけはファンタスティック過ぎて、作品のバランスを狂わせていると感じられた。特にラストはちょっと……。