東京室内歌劇場第122回定期公演
新国立劇場中劇場:18時〜
- リゲティ:歌劇《ル・グラン・マカーブル》
- 森川栄子(ヴィーナス/ゲポポ)
- 津山恵(アマンダ)
- 小畑朱実(アマンド)
- 西川裕子(メスカリーナ)
- 池田弦(ゴーゴー伯)
- 高橋淳(大酒呑みのピート)
- 青地英幸(白大臣)
- 和田ひでき(黒大臣)
- 松本進(ネクロツァール)
- 若林勉(アストラダルモス)
- 小畑秀樹(ルフィアック)
- 大澤恒夫(ショビアック)
- 中原和人(シャーバナック)
- 藤田康城(演出)
《ル・グラン・マカーブル》の日本初演。初日だったのでガチで日本初演です。
ストーリーの概要は「死神が世界を破滅させることに失敗する、という物語ですが、全体的には完全に「オペラ」という表現形式そのものへの露骨なパロディが施されており、深刻な何かを作品を通して表現しているかと言われれると微妙なところ。タラタラ長い台詞回しがあったり、一部の登場人物には延々と声を張り上げる場面があったり、最後の重唱はどう見ても《ドン・ジョヴァンニ》の幕切れを洒落のめしていたり、ファンファーレを車のクラクション(12本!)でやったりと色々とバカにしている感じがします。愛の二重唱を口ずさむカップルがどちらも女声なのは明らかに《薔薇の騎士》、国民に何だかんだ言いつつ信頼されているゴーゴー伯がカウンターテナーなのはバロック期のオペラのパロディでしょう。またそれ以外にも倒錯的な要素があります。たとえば、髭面のおっさんであるアストラダルモスは初登場時、メイド服を着て妻メスカリーナに鞭でしばかれています。挙句の果てにはディルドー突っ込まれる始末。しかしこの性癖は、アストラダルモスのものではなく、妻のものなのです。彼は妻を内心では憎んでいるのです。いやあ変な人間関係だなあ。そして死の預言者ネクロツァールの失敗は、彼が勧められるままに酒を飲み過ぎたことにより、生じるのです。
というわけで、実に変な筋なんですが、それが楽しいんですよねえ。お下劣な歌詞も頻出します。また、音楽は完全にリゲティのもの(現代音楽ですよ現代音楽!)。オペラの初心者向きとは言えないかも知れませんが、演劇方面に明るい人は、かえって普通のオペラよりも入り易いかもしれませんね。
各歌手も総じて熱演。ウリ・セガールの堅実かつ安心できる指揮と相俟って、音楽的な面では過不足なく聴けました。もっと精度の高い演奏はいくらでも考えられるんでしょうが、自然な息吹を感じられたのは評価に値すると思います。歌手陣に穴がなかったのも良かった。
藤田康城による演出は、「酒処」「霊柩車」なども出て来る和洋折衷のものであると共に、「糸」を多用した作品で、若干やり過ぎだったかも知れませんが、遊び心の方向性は作品に沿ったものなので、それなりに評価したい。ただし今回の演出独自の出演者である「パフォーマー」の位置付けはよくわかりませんでした。常に台車で移動して登場人物を舞台上に持って来たりする意味は何だったのか?