不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

メアリー-ケイト/ドゥエイン・スウィアジンスキー

メアリー‐ケイト (ハヤカワ・ミステリ文庫)

メアリー‐ケイト (ハヤカワ・ミステリ文庫)

毒を盛ったから、あなた十時間後に死ぬわ――バーで飲んでいたジャックは、隣の席に座った美女の言葉に耳を疑った。さらに、解毒剤がほしければいうことをきけと言い、奇妙奇天烈な要求をしてくる。片時も離れず、女がトイレに行く時も一緒についてこいというのだ。やがてムラムラしたジャックは彼女に襲いかかってしまう。そんな馬鹿なことをしている間に悲劇は着々と進行し……予測不可能なタイムリミット・サスペンス。

 以上が本書の裏表紙に印刷されている粗筋紹介である。これ、完全な嘘ではないが、肝心なところをほとんど書いていないため、読み口を全く伝えていない。しかし書いたら書いたで完璧にネタバレになってしまう。ああ何と隔靴掻痒であることか! とにかく珍無類な小説であることは間違いない。趣味でマフィアの悪党を狙撃しているアメリカの秘密工作員とかですら序の口だからなあ……。
バカミス」と言うと突飛なトリックを使った本格ミステリだけを指すと考えている読者は多いようである。それはそれで見識だが、本書は突飛な展開を見せる非本格のミステリであり、個人的にはこのような小説もバカミスと考える。なお私はバカミスを一種のジャンルと捉えているため、その突飛な展開が真に質の高い読書体験をもたらしてくれるかまでは(何を言ってもネタばらしになる、という事情もあるのだが)言及しないし保証もしないが、イカモノ好きな人にはたまらない逸品であることだけは間違いない。正直いかにもつまらなそうな表紙だが、これに騙されてはいけない。好事家向けのアイテムであることは確かだが、好事家であれば必読、それがこの『メアリー-ケイト』なのである。