不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

通訳/ディエゴ・マラーニ

通訳 (海外文学セレクション)

通訳 (海外文学セレクション)

 淡々とした筆致により「非常に落ち着いた幻想文学、」という楚々とした雰囲気を醸し出しているのだが、展開が徐々にトンでもになっていき、かなり笑える。何をどうやったらこんなストーリーになるのか、作者の頭の中身を見てみたい。この点で、最近だとローレンス・ブロック『快盗タナーは眠らない』と双璧を成しているように思われた。しかもオチが強烈。広義のミステリとも考えられ、バカミスとして称揚しても構わないと思う。
 とはいえ、「バカミス」という表現に抵抗がある読者にもこの小説は受け容れられるだろう。先述のとおり筆致がいい感じであり、主人公の孤独感や疎外感が非常に端的に表現されているのが素晴らしい。先述の奇怪なストーリーも、この主人公の心象風景を表徴しているようにも思われ、非常に味わい深い。
 というわけで、真面目な読者にも不真面目な読者にもおすすめできる、幻想文学バカミスであると思われる。娯楽性はそれほど高くない(「おもてなし」があまりない)ので、そういった作品でも十分に楽しめる人には強くおすすめしておきたい。