不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団第1634回定期公演

NHKホール:15時〜

  1. ストラヴィンスキーバレエ音楽《ミューズの神を率いるアポロ》
  2. ストラヴィンスキー:オペラ・オラトリオ《エディプス王》

 演奏会形式上演である。前半は弦楽オンリーの曲、後半はオラトリオとう形式を取っております。なお平幹二朗は(当然ですが)PAを使用していました。
 前半の《ミューズの神を率いるアポロ》は、デュトワの折り目正しさと溌剌さが両立したアプローチが見事に決まっていました。曲想の描き分けもばっちりでしたよ。ここら辺は流石デュトワNHKホールでなければもっと映えたと思います。というか、フランチャイズNHKホールでなければ、このド官僚的なオーケストラももうちょっと改良されると思うんだけどなあ……。下品なたとえで本当に恐縮ですが、このオケ聴く度に、ベッドの上で男(=指揮者)がマグロ相手に四苦八苦している様子を想起してしまいます。ジャナンドレア・ノセダ辺りが指揮した場合は、指揮者とのギャップが異常なレベルに達して逆に「キョウミブカク」聴けるんですけどね。
 後半はオケが後方に退き、声楽と語りが前面に出て来ることもあり、大満足でした。
 エディプス曰く「あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! 『テーバイの疫病を祓おうと思ったら いつのまにかおれが父を殺し、母を妻にしていたことがわかった』 な…何を言ってるのか わからねーと思うが おれも何をされたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだった… スフィンクスだとかコンプレックスだとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…」 かくて母にして嫁のヨカスタは自殺し、エディプスは自ら両目を潰してテーバイを去るのであった。これが粗筋。
 デュトワの音楽作りは純音楽的なもので、色々言いたくなる人はいるでしょうが、私はこれで必要十分だと思いました。ていうか相手はストラヴィンスキーですよ? ドス暗い感情やケレンをぶちまけるような演奏は(もちろん、それはそれで面白いけれども)、正否の議論に持ち込まれたらどうしようもないと思う。理性や知性で統制してこそ、この作曲家は輝くのだと思う。声楽陣はいずれも見事で、特に合唱の健闘は称えておきたい。あと、平幹二朗の語りは素晴らしかった。これみよがしの演技をしないのが、デュトワが主導する端正な音楽作りとマッチしており、自然に聞けました。これらが合わさって、総合的にすこぶる完成度の高い公演になったと思います。いやー、やっぱデュトワストラヴィンスキーはいいわ。