不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

清掃魔/ポール・クリーヴ

清掃魔

清掃魔

 ニュージーランドクライストチャーチでは、最近、女性を暴行して惨殺する《カーヴァー》と呼ばれる殺人鬼が出没していた。その正体は、実は警察署の清掃員のジョー。署内でジョーは頭の足りない若者と思われているが、それは演技に過ぎなかった。ジョーは知的障害者を演じながら、警察内部の情報を密かにチェックしていたのである。警察では、《カーヴァー》が7人の女性を殺したと認識しているが、実はその内1人は、模倣殺人だった。6/7とはいえ濡れ衣を着せられた格好のジョーは、警察の資料を盗み見られる点と自身が真の《カーヴァー》であることを頼みに、独自にこの模倣犯を探し出して復讐しようとするが……。
 ジョーはトンプスン・タイプの悪役であり、自己中心的な語り口で物語を軽妙に進めていくが、確かに狡猾だが自分で思っているほど高スペックの犯罪者ではない。その証拠に、私生活での彼はママによる過干渉を拒めないでいる。ママは、一週間連絡を寄越さないとメソメソ泣いて息子をなじり始めるのだ。ジョー、お前も大変だな。この他に、ジョーを純真な知的障害者と信じていて何かと世話を焼いてくる(ジョー曰く鬱陶しいデブの)サリー、ジョーの正体を見破る悪女メリッサが主要人物として登場する。サリーは家庭で若干抑圧されている上に、主がどうのこうのと言い始めるので、実際確かにうざいが、ジョーは無垢な青年を演じているので無下にできないのである。そしてメリッサとの絡みでは――男なら股間を押さえて前かがみにならざるを得ない、相当えげつないシーンが含まれていると言っておくに止めよう。
 本書は、連続殺人鬼の一人称小説であり、猥雑・軽快・反モラルの極みを行く。しかしこういう(ノワールと言えなくもないが、帯や解説で断言してしまうと異議を述べる人が出て来そうな)小説の常として、悪辣な犯罪者であるはずの主人公の生活臭がいい感じで漂って来て、非常に面白い。これは拾い物。おまけにニュージーランド・ミステリと来ている。セバスチャン・フィッツフェイクといい、柏書房はいい仕事してくれるなあ。