不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

メフィストの牢獄/マイケル・スレイド

メフィストの牢獄 (文春文庫)

メフィストの牢獄 (文春文庫)

 アメリカとカナダにまたがって、スコットランド系の男が殺害される事件が起きる。死体には拷問された形跡があった。やがて犯人《メフィスト》は、捜査官ニック・クレイヴンを人質にとり、カナダ騎馬警察にある古代の秘宝の探索を要求してくる……。
 今回はサイコキラーとの戦いを正面から描いており、本格ミステリとの混交といったいつも使っている奇手は全く使っていない(!)。しかし、このサイコキラーがとんでもない誇大妄想狂なので、内容はいつものようにカロリー満点である。この《メフィスト》、ケルトの民がアトランティスの末裔であって自分はさらにその末裔なのだと信じ込んでおり、ストーンヘンジを米加の国境付近に再建して宇宙の謎を解き明かすために殺人をおこなうのである。しかも凄いセクロス洋服店員を下僕化し、DQN兄ちゃんたちを部下に擁した上で。……って、いやホントにこんな奴なんだってば。
 シリーズ・レギュラーの扱いもいつものように素晴らしく酷いもので、呵々大笑できる(←当事者は笑うどころではないが)。本格テイストゆえにこの作家を愛好する人も多そうではあるが、何冊か読んでいたら「本格ミステリ」の要素だけではなく、広げに広げられる大風呂敷もまたこの作家の魅力であるとわかっているはずだ。だから、今回もこう言いましょう。スレイディストには必読!