不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

前世療法/セバスチャン・フィツェック

前世療法

前世療法

 ベルリンの刑事弁護士シュルテンは、10年前に生後間もない息子をなくすという悲劇に見舞われ、挙句妻とも離婚してしまった。その記憶をできるだけ思い起こすまいと仕事にのみ邁進する日々を送る彼であったが、ある日、ガールフレンドの看護士カリーナから工場跡地に呼び出しを受ける。待ち合わせ場所に行ったシュルテンは、そこで脳腫瘍を患う10歳の少年ジーモンに引き合わされる。ジーモンは何と、その場で15年前に人を殺したと証言していた。半信半疑のシュルテンだったが、言われたとおりの場所に白骨死体を発見してしまう。ジーモンには本当に前世の記憶があるのか? それとも……?
『治療島』『ラジオ・キラー』と、心傷を持つ主人公への切り込みという点では共通しつつも、一見全く類型の異なるミステリを連発して、瞬く間に実力者と認められるに至った作者の、待望の第三作である。今回も主人公の癒しを重要なテーマとしつつも、輪廻という新機軸を打ち出している。ストーリーテリングが非常にうまく、400ページを一気に読めるのも素晴らしい。『治療島』で見せた《病んだ主人公への慰めの調べ》と、『ラジオ・キラー』での《矢継ぎ早のシーソーゲーム》がうまく融合されている点にも注目したい。唯一残念なのは、ミステリと無関係ではあるもの、ほんの少しばかりご都合主義が感じられる部分があるところだ。しかしそれでもなお、実によく練られた娯楽小説であることは間違いない。広く、そして強くおすすめしたい。