不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

きのうの世界/恩田陸

きのうの世界

きのうの世界

 水路が多く、中心部には謎の塔が2本屹立する町のはずれに「水無月橋」という橋があった。そこで見付かった死体は、1年前に東京から失踪した男のものだった。彼はこの町でしばらく測量のようなことをやっていたようなのだが……。
 恩田陸の最新長編にして、帯にあるように「これは私の集大成です」という言葉も嘘ではない、作者の特徴が詰まった良作となっている。即ち、事件と舞台が謎に満ちている。視点人物がくるくる変わり、事件を取り巻く魅力的な群像劇が形成される。謎の魅力を引き立てることに注力されたプロットとストーリー、そして風呂敷を綺麗に畳むことになどほとんど興味がないのではないかと思われる不可思議なラスト。そして全てはよく練られた文章で柔らかく綴られていくのだ。まさに恩田陸、いかにも恩田陸である。
 しかし本書は、それだけには止まらない。大トリックが炸裂するのである。しかも無駄に。これはひどすごい。仄聞するところによると、作者自身もバカミスであることを認めているようなので、堂々と認定しても差し支えあるまい。これはバカミスである。個人的にはもうちょっと理詰めで作品に埋め込んでくれた方が良いと思うが、幻想小説的な光景を現出してくれており、悪くない。それに、恩田陸の一種ファジーな作品世界にはよく合っていると思います。オススメ。