トスカの接吻/深水黎一郎
- 作者: 深水黎一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/08/07
- メディア: 新書
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芸術全般に造詣が深いフリーターの瞬一郎と、彼の伯父・海埜刑事のコンビが、舞台上で起きた殺人事件の謎を解く物語。ミステリ的には小粒だがよくできた作品である。作中の殺人事件が、著名オペラである《トスカ》と、オペラ公演の現状と絶妙に、暗喩たっぷりに響き合うのは素晴らしい。ここは小説としても非常に面白いし、本当によく取材しているとも思う。カヴァラドッシ役がバイロイトでジークフリート歌うような本格的ヘルデン・テノールだったり、《さまよえるオランダ人》を楽劇と書いてしまっていることなどから、作者が根っからのオペラ・フリークでないことは明らかだが、作品の質には無関係だし、逆に言えばこの程度の瑕しかない。なおこの瑕が浅いのは、本書におけるオペラへのアプローチが、音楽方面からではなく演劇方面からのものであることにもよる。
というわけで、『エコール・ド・パリ殺人事件』がお好きな方には、遠慮なくおすすめしておきたい。