不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

エコール・ド・パリ殺人事件/深水黎一郎

エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ (講談社ノベルス)

エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ (講談社ノベルス)

 エコール・ド・パリの画家たちを中心に隆盛を誇る有名画廊の社長が、自宅で殺害される。現場は密室状態であった。捜査は意外に難航したが、生真面目な海埜刑事の甥・瞬一郎が帰国し、捜査に光明を投げ掛ける。
 殺人事件捜査を扱った章の合間に、被害者が著したエコール・ド・パリに関する書からの引用が挟まれ、次第に被害者の芸術論が明らかになっていく。この構成が非常に効果的である。というのも、最終的に立ち表れる真相が、被害者の著書で解説される実在の画家たちの人生と、ある意味で見事な相似形を成しているからだ。大きな驚きや、緻密を極める論理があるわけではないものの、素直にいいお手前だと思う。うまく作った自然体の本格ミステリが好きな人には、非常にいいと思う。
 なお作者の深水黎一郎は『ウルチモ・トルッコ』でデビューした人であるが、前作と比べるまでもなく、『エコール・ド・パリ殺人事件』は非常に落ち着いた雰囲気を持つ、すっきりした本格ミステリになっている。これはこれで面白いが、作家性を見定めるためにはもう少し時間がかかりそうだ。ただ、ギャグ面を担当する警部の造形が寒いのは気になった。改善すべきなのは明らかである。