温かな手/石持浅海
- 作者: 石持浅海
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/12
- メディア: 単行本
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ギンちゃんは、種が違うからこそ冷静に殺「人」事件に接することができる。寛子は、そんなギンちゃんに適切な量の生命力を吸い取られることで冷静さを取り戻し、知人が死亡しているような殺人事件現場でも冷静さを失わない。東京創元社のHPで作者自身が述べているように、これは「殺人事件に巻き込まれたのに、どうしてお前はそんなに冷静なんだ」という突っ込みへの有効な回答である。もっとも結局超特殊設定に頼っているので、そう何度も使えないが。
本書には七つの短編が収められている。人間心理を機軸に据えたロジック構築は、いつもどおり手馴れたものであり、堅牢でありながらもどこかに不気味な違和感を湛えている。また顕現する《善意》《悪意》そして《倫理》といったものも、なかなかオリジナリティに溢れていて予想と期待を裏切らない。これまたいつもどおりだろう。この仄かに薫る気持ち悪さは何かと考えながら、非常に読みやすい洗練された本格ミステリを読むのも乙なものである。
というわけで、総じて楽しめる短編集になっており、広くオススメできる。個人的には登場人物の配置が綺麗に決まる「陰樹の森」と、被害者の変な習慣がヒントとなり、かつちょっとした二重底構造になっている「大地を歩む」がお気に入り。石持浅海は本当に安定していると思う。