不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

インシテミル/米澤穂信

インシテミル

インシテミル

 詳細不明だが、時給一、一二○百円(つまり、11万2千円!)の実験モニター・アルバイト募集に釣られて、12名の男女が集まってきた。彼らは地下施設に閉じ込められ、一定のルールの下に一週間を過ごすことになる。そのルールは、12名に互いの殺し合いを促す、驚くべきものだった!
 米沢穂信が遂に本格ミステリでガチンコ勝負を仕掛けて来た……というだけで買いの一冊。
 肝心の出来もさすがに素晴らしい。簡潔に要点を絞り込むロジックは見事である。話の転がし方も今回は本格ミステリに拘っており、ヒステリーに陥る一部の登場人物を除き、殺人者の影に怯えつつも不思議と冷静さを失わぬ登場人物たちが、極端に人工的・人為的なクローズドサークルにおいて、理性的で論理的な議論を展開していく。名探偵/助手/被害者/容疑者(=事件関係者)/犯人の人選やその言動、そして各殺人における凶器に趣向が凝らされており、マニアへのくすぐりも十分である。これらでニヤニヤするも良し、普通に楽しく読むも良し。本格という観点からすれば、本書は多面的な楽しみ方が可能なのだ。
 ただし、いつもの青春要素は鳴りを潜めている。読みやすさだけは残しつつ、米沢穂信は本格ミステリに関する事項にのみ淫している。この潔さをどのように評価するかが、各読者においての評価の分岐点といえよう。もちろん私は高く評価する。