不壊の槍は折られましたが、何か?

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ハッピーエンドにさよならを/歌野晶午

ハッピーエンドにさよならを

ハッピーエンドにさよならを

 短編集のタイトルどおり、数々のヤな話が、歌野らしい技巧によってしっかり構築されている。物語をぐるりと反転させることもしばしばのオチが、そのあっけらかんとした佇まいも含め、人生の空疎さ・虚しさ・無意味さを表してやまないとも思う。高校の教師に文系の学部に進めと言われたことに反発し理系学部を志望するような、幼稚だがしかし強烈な反発心は、長ずれば世の中や人間に対する皮相な思想に転ずることがある。この作品集はその典型例であるのかもしれない。歌野ファンにはおすすめです。
 個人的には、家族への疑念を語る「おねえちゃん」、東大受験の物語「サクラチル」、キレる感情を描いた「消された15番」、教育ママの話だがオチが違う方向で発露する「防疫」、ホームレスの疎外感を描く「尊厳、死」辺りが好みだ。