不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

犬はどこだ/米澤穂信

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

 極めて端正な作品。ある地方都市に開業した探偵が早速依頼を受け、失踪した女性を探し始めるという物語。ストーリーには曲折が色々あり、語り手も二名いて、郷土史資料やチャットやログなど文体も多様だが、文章は常に読みやすく、物語もスムーズに流れてゆくのが好印象。キャラもしっかり立っている。色調は基本的にユーモラスだが時々陰りが見られ、ラストの余韻も非常に印象深い。ネタも綺麗に決まる。
 というわけで、全編楽しく読めてミステリ的にも満足でき、余韻も十分という、欠点を見つけるのが難しい小説である。完成度および凝縮度の点からいえば、米澤穂信の最高傑作かもしれない。本年度国内ベスト20クラスのミステリ*1であることは間違いなく、初心者から手練れと、非常に幅広い層にお薦めできる。「なんかいいミステリない?」と紹介を依頼された場合は、まずは指を折るべき作品であるといえよう。

*1:投票イベントの際には票が割れるかも知れないので、このミスまたは文春等でベスト20入り確実であるとは言わないでおく。