不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

シャトゥーン/増田俊成

シャトゥーン―ヒグマの森

シャトゥーン―ヒグマの森

 北海道の雪に閉ざされた深い森。その中の小屋で年末年始を過ごそうと、研究者とその知り合いたちが集まってくる。だがその小屋に、ヒグマに仲間を食われた密猟者が駆け込む。そして小屋は、その体重350キロを超えるヒグマに襲われ、徐々に壊されてゆくのだった……。
 地上最大最強にして狡猾な肉食獣ヒグマの恐ろしさをまざまざと見せ付ける。北海道の雄大な、だが危機に瀕している自然を背景に、巨大なヒグマに次々と食われてゆく登場人物たち。シーンの生々しさは特筆ものであり、パニック小説として面目躍如たるものがある。クマ最高!
 しかし一方で、人間は問題。ミステリ要素は完全に蛇足である。人物造形も通り一遍でしかない。また、ヒグマの暴虐さに隠れて目立たないが、襲われている人間が毎度毎度「痛い」「やめて」としか叫ばないのも、正直ちょっとどうかと思った。もう少しバリエーションを付けても良いはずである。食われている最中の心理描写は素晴らしいのだが……。
 さらに、肝心の戦闘も、最終章でご都合主義に陥ってしまうのは残念だ。せめてあと一人殺しておけば、ヒグマの恐ろしさがもっと出たろうに……。作中のヒグマは容赦ないのだが、作者が登場人物に対する仏心を捨て切れず、不徹底になったうらみがある。クマの描写は最高であるだけに、惜しい。