不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

アキレス将軍暗殺事件/ボリス・アクーニン

アキレス将軍暗殺事件 (ファンドーリンの捜査ファイル)

アキレス将軍暗殺事件 (ファンドーリンの捜査ファイル)

 英雄視されていたロシアの名将がモスクワで急死する。日本から帰国してモスクワに赴任していたファンドーリンは、、彼の死が殺人ではないかと疑った。そして捜査を進めるにつれ、彼は帝国の根幹にかかわる陰謀劇に巻き込まれてゆく……。
 前作『リヴァイアサン号殺人事件』は本格ミステリとしても読めたが、今回は様相が全く異なる。日本から帰国したファンドーリンは、日本人小姓を連れ帰っているのだが、この二人が派手に立ち回ってくれる。ファンドーリンはどうやら忍術の修行をしていた模様で、手裏剣飛ばして(!)ギャングに立ち向かう。なかなか愉快だ。そしてあれよあれよという間に、ファンドーリンは凄腕の殺し屋と対決する羽目に陥る。冷静になって考えてみるとかなりアホアホだが、躍動感に富んだストーリー展開、張り巡らされた陰謀などなどで読者を一気に押し切るため、あまり気にならない。というかうまい! うま過ぎですよアクーニン! 人間ドラマも意外に掘り下げられ、通り一遍の人物描写に終わらないのも素晴らしい。今回は全体的に、そこはかとなく山田風太郎を想起させられたが、作品ごとに全然違う顔を見せてくれるこのシリーズ、今後も定期的な訳出を望む。