不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

六死人/S・A・ステーマン

六死人 (創元推理文庫 (212‐2))

六死人 (創元推理文庫 (212‐2))

 1931年の作品。
 5年前、6人の若者たちが、大金持ちになって帰って来よう、そして成功した者も失敗した者も全員で財産を山分けしようと誓い合い、パリから世界中に旅立って行った。そして今年、全員が帰国してくる……。だが、その途中で、1人が客船から海に落ちて行方不明となる。やがて、彼らには6人の名が記された紙片が届き、1人また1人と傍線で名前が消されてゆくのだった。
 210ページ程度の短い話に、作者は暗めの色調で(しかし軽やかに)サスペンスや恋愛劇を込める。登場人物造形は特に濃くないが、わざとらしい芝居気はない。深い人間ドラマ等はまるでないが、人物を取り巻く状況・雰囲気を通して人間を描写しようという、(こう言うと読書量が僅少であることがバレるけれど)いかにもフランス風な小説が楽しめる。ただし、味付けは必要最低限にとどめられ、人によっては物足りなく感じるかも知れない。ミステリとしてのネタもえらくシンプルなので、強烈なのを期待されても色々と困る。個人的には、非常にさくさく読めるし、いいんじゃないでしょうかと思う。軽いミステリを読みたければお薦め。
 ただし、創元推理文庫の裏表紙および扉の《粗筋》は最低。バレバレである。これを書いた人間の見識を疑わせるに十分であろう。確かにネタはシンプルだが、自分から(事実上)明かしてどうしたいのか。理解に苦しむ。