不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

晩餐は「檻」のなかで/関田涙

晩餐は「檻」のなかで (ミステリー・リーグ)

晩餐は「檻」のなかで (ミステリー・リーグ)

 売れないハードボイルド作家・錫井イサミは、やる気のない担当編集者の勧めるまま、本格ミステリーに転向して一旗挙げようとする。そんな彼が書いた作品は、仇討ちが合法化された日本において、仇討ち専用施設「檻」に、「囚人」「仇討ち者」「共謀者」「傍観者」「邪魔者」「監視者」「探偵」の七名が集い、72時間、虚々実々の駆け引きをおこなう、というものであった……!
 最後はなかなかに綺麗であり挑発的でもあって、一定の評価ができる。しかし、周到な伏線や緻密な論理等に基づいたものではないし、ジャンルにおける概念のラディカルな転換といったものもないため、小手先の皮肉やおちょくりといった感が拭えない。更に、作中作の世界はあまりに突っ込み所が多い不自然なものであり、その不自然さを筆力でねじ伏せるようなこと(雰囲気で誤魔化す等)もできておらず、過大評価は禁物だ。
 売れない作家が懊悩するパートも、展開される人間ドラマがあまりに安く、しかし筆の中には《小説に関する主張》や登場人物に対するシンパシーが中途半端に見受けられ、どうにも吹っ切れていない。戸梶圭太折原一のように、色々と割り切って突き放せばいいのに……。
 というわけで私の評価は芳しくないが、一部で好評のようでもあり、暇な方はトライしてはどうだろう。