不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

被害者は誰?/貫井徳郎

被害者は誰? (講談社ノベルス)

被害者は誰? (講談社ノベルス)

 この作品を作者はマニアックなものだと認識しているらしい。

 所収の四編いずれも、フーダニットだが犯人当てではない形式をとる。これは恐らくパット・マガーへのオマージュであり、作者がマニアックと言ったのはここを指してのことだろう。しかし、その特異さは強調されておらず、むしろ本格の古典的な形式にはめて(天才型変人名探偵とDQNな弱気ワトソン、安楽椅子ものの構成など)、非常にまっとうな本格ミステリとして整理されている。
 そもそもマガーが(知名度は別問題として)マニアックなのかという議論も必要だろう。バークリー等と違い、ミステリ読むの初めてという人も正確に評価し得る作家だし。

 しかし考えてみれば、この作家が一行目から本格とわかるような本格を書くのは初めてである。これまでは、ネタだけ本格、という感じの作品が大半を占めていたわけである。となると、貫井がマニアックだとしたのはこの古典的な形式そのもの、という理解も可能だろう。

 いずれにせよ、貫井徳郎という作家の立ち位置を考える上では、大いに参考にすべき作品であり、その意味では必読と言えるだろう。