不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

鬼蟻村マジック/二階堂黎人

鬼蟻村マジック (ミステリー・リーグ)

鬼蟻村マジック (ミステリー・リーグ)

 鬼蟻村の権力者で、銘酒を造っている上鬼頭家では、七十年前に鬼が客の軍人を斬り殺すという奇妙な事件が起きていた。一族の姪から週末だけ偽装婚約してくれと頼まれた水乃サトルは、報酬のリカちゃん人形コレクションに目がくらみ、その謎を解くため鬼蟻村にやって来た。だがそこで新たな事件が……!
 二階堂黎人にしては意外なほどコンパクトにまとまっている。因習にとらわれた名家のややこしい人間関係に鬼伝説を絡めたにもかかわらず、怪奇趣味を抑えたのが奏功したのだと思われる。トリックはシンプルでプロットもそこまで複雑ではないが十分に水準以上で、過大な期待さえ抱かなければ大丈夫だろう。犯人や動機について作者が腐心しているのも好印象である。サプライズを用意しようという拘りは評価されてもいいのではないか。また、いつもは目障りであった、二階堂黎人の考える「正義」を作品内で高らかに主張しようという変な欲目も、今回はない。全体としてはすんなり読み通せて後味もいい。この作家がこういった「端正な」本格ミステリを書くとは思わなかったが、十分に成功していて好印象を持った。文章がうまいとは言えないのが残念だが、本格ファンなら読んでみてもいいのでは?