不壊の槍は折られましたが、何か?

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殺してしまえば判らない/射逆裕二

殺してしまえば判らない

殺してしまえば判らない

 バカミストークショー推薦本第7弾。妻に自殺(?)で先立たれた主人公の首藤彪*1の生活が、淡々と綴られる。最初は近所の人々が登場して、ときに優しく、ときに嫌味に主人公に接する。しばらくすると、女装したヤメ検の中年男性が登場し、主人公の悩みを見抜き、彼の妻の自殺を一緒に調べ直し始める。事ここに至っても物語は淡々としており、以後、途中で新たな事件も起こるのだが、基本的には最後までこのムードは維持される。
 登場人物は目立ったキャラ立ちをしていないが、かと言って書割りのような存在感の希薄さもない。まあさくさく読めるし良いんじゃないでしょうか……などと気のない感想を抱きかけていたら……!! 久々に、一点突破型の作品が読め、私は満足です。賛否はあろうが私は支持する。広範な拒否反応を惹起するようなタイプの小説でもないので、幅広くお薦めしたい。
 しかし、デビュー作『みんな誰かを殺したい』を読んだ時点では、こんな作家だとは思わなかった。新人賞でデビューする人は猫被ってることがあり、注意を要するのだ。そのことを改めて痛感した。

*1:34歳で一人称は《ボク》。妻に死なれたショックで会社を辞め、今は無職である。