不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

殺し屋の厄日/クリストファー・ブルックマイア

殺し屋の厄日 (ヴィレッジブックス)

殺し屋の厄日 (ヴィレッジブックス)

  • 作者: クリストファーブルックマイア,Christopher Brookmyre,玉木亨
  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 文庫
  • クリック: 1回
  • この商品を含むブログ (4件) を見る
 マグレガー警部は、物も血もゲロも散乱し、おまけにうんこまである殺人現場に踏み込み、部下たちが踏んづけて跳ね返ったゲロが衣服に付着し、ご機嫌斜めであった。だがもっと運が悪かったのは、こんな現場にせざるを得なかった殺し屋(これが物凄いバカ)の方であったのだ。さらに、現場の上の階に住んでいて、前夜痛飲した結果、自室から閉め出されてしまい現場周辺を半裸でうろつく羽目になった新聞記者パーラベインも、警察に一旦疑われるという不幸に見舞われる。しかしそこは本職の記者、ただでは起きない。事件の裏に医療に関する不祥事があるのではと見たパーラベインは、殺された医師の元妻(彼女も医者)の協力を得て、独自に調査を開始する。
 本邦紹介の順番こそ2冊目となったが、ブルックマイアのデビュー作に当たる長編。以前に同じ文庫で『楽園占拠』が訳出されたものの、私はそちらは未読である。
 どぎついユーモアに彩られた、ドタバタ・サスペンスといえよう。人類はここまでバカになれるのか、という感じで、殺し屋と黒幕が右往左往する様は、非常に素晴らしい。主人公パーラベインのパートも、ブラック・ジョークに彩られた何とも言えない雰囲気を持ったもので、なかなか面白い。ピンチに陥るような状況にあってすら空とぼけた味わいを失わないなど、直球勝負の物語を求める人にはあまり受け容れられないだろう。しかし、こういうのが好きな人は少なくないはずだ。モンティ・パイソン見てぶち切れる人なんて、実はそんなに多くないでしょう?
 というわけで、総じて、ベン・レーダーの『馬鹿★テキサス』や、カール・ハイアセンに通じる持ち味が特徴であるが、作者がイギリス人であることもあって、オフビートな感興が非常に強く打ち出されている。私は非常に好きであります。