不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ラジオ・キラー/セバスチャン・フィツェック

ラジオ・キラー

ラジオ・キラー

 ベルリンのラジオ局に侵入したヤンは、キャスターやラジオ番組の見学に来ていた客を人質、スタジオに立てこもってしまう。そしてラジオを通して、ベルリン市民に無差別に電話をかけ、合言葉を正しく言えないと人質を一人ずつ殺していくと宣言した! ベルリン警察のゲッツは、この犯人との交渉役として元恋人の犯罪心理学者イーラを呼び出す。だかがイーラは、長女に自殺されたショックからアル中になって久しく、ちょうど自分も後追い自殺しようとしていたところだった……。
『治療島』で鮮烈なデビューを飾ったフィツェックの第二作。前作とはがらりと趣向を変え、帯に一切の偽りなし、ノンストップで進む傑作スリラーとなっている。猫の目のようにくるくる局面が変転し、「思わぬ展開」が矢継ぎ早に打ち出される。500ページ弱の間、読者は息つく暇もないはずだ。リーダビリティやストーリーテリングも抜群であるし、終始読みやすい訳文も素晴らしい。簡にして要を得た人物描写も秀逸で、やはり特に主人公イーラが活き活きと描き出されている。長女の死から受けた衝撃、またこれに起因しての次女との反目を乗り越えて、彼女はこの派手な大事件を解決せんと奮闘するのだ。当日、事件発生を知るまでは自殺する気だったのに! 彼女についてはもう一つ、心理学者だが医学的な側面よりも《交渉人》としての側面が遥かに強く打ち出されるのだが、これはフィツェックが目指すものが娯楽小説であることを示すものだろう。そう、本書は徹頭徹尾、サービス精神旺盛な劇的娯楽スリラーなのである。ミステリ・ファンに広くおすすめしたい。