空の境界/奈須きのこ
- 作者: 奈須きのこ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/06/08
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作品の出来自体も非常に良いと思う。
確かに文章はやや生硬で、先述の上遠野・西尾の二名の方が遥かにこなれた文章を書く。しかしこれは奈須きのこが未熟だからではない。計算づくとまでは言わないが、これはこれで味というか、作者の個性に昇華されている。冷たい戦闘シーンなどその最たるものだし、ドロドロ描こうと思えばいくらでもやれる場面でも(そして前述の三人なら間違いなくそうする。上遠野はちょっと抑えるかも知れんが)、クールにさっぱりと描出する。ただし、あっさりでないのは注意すべき。また、地の文・科白双方とも饒舌だが、作者の人格や見解が前面に出るような(或いはそう錯覚させるような)瞬間は皆無である。作者は常に冷静に、物語と登場人物、そしてテーマを扱う。結果的に、登場人物たちは作者自身から距離を置かれており、その分全体像を俯瞰しやすい。後続の作家たちとはまた別の、これもまた素晴らしい視点を持った作品といえよう。
というわけで『空の境界』、ひょっとして傑作かも。夢中とまでは行かなかったが、非常に楽しめたのも事実。新伝奇、笠井潔、同人、懐古主義者(悪い意味で)、偏見持ちなどなど、今の時点では外野が非常に煩いため、そういうのに耳を閉ざせる人にはお薦め。