不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ハローサマー、グッドバイ/マイクル・コニイ

 ヒューマノイド型異星人(とりあえず人間だと思って読んで問題なし)が19世紀末と概ね同水準の文明を築いている、ある惑星。政府官僚を父に持つ少年ドローヴは、休暇を過ごすため両親と共に、首都から港町パラクーシを再訪する。ドローヴが想いを寄せる少女ブラウンアイズは更に美しく成長していた。二人は、同じく政府官僚を父に持つ少年ウルフ、ブラウンアイズの友人リボン、を交えて遊ぶが、折からの敵国アスタとの戦争が、やがてパラクーシにも暗い濃い影を投げかける……。
 やっと読めたサンリオSF文庫の名高い作品。ドローヴとブラウンアイズの恋愛、仲間たちとの交流、ドローヴと両親の確執、町の住民との衝突といった人間ドラマ的な側面が、抑えた筆致で、静かに描出されてゆく。このえも言われぬ情感は、本当に何ともいえない香気に満ち溢れている。
 舞台となる惑星の自然描写も秀逸だ。地球に似た風景だが、点在する違う部分が実に美しい。
 というわけで、基本的には、胸に静かに染み入るタイプの作品である。作者まえがきにあるような、恋愛小説・戦争小説・SF小説・青春小説等々の要素が、実に見事に調和されているのだ。そして全体的に読みやすく、しかもまとまり良し(300ページない)、おまけに感動的となると、傑作と称さないのはむしろ怠慢であろう。物語が時に湛える残酷さもまた、素晴らしい薬味となっている。広くおすすめしたい。