不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

竜を駆る種族/ジャック・ヴァンス

竜を駆る種族 (ハヤカワ文庫SF)

竜を駆る種族 (ハヤカワ文庫SF)

 惑星エーリスでは、崩壊した大宇宙帝国の末裔とされる人類の生き残りが、中世ヨーロッパに帰ったような生活を送っていた。だがそこでは長年にわたり、集落間の対立があり、今もまた、バンベック一族の住むバンベック平を幸いの谷の首長カーコロが狙っていた。この世界での戦争の主力は、過去にエーリスに来襲した爬虫類異星種族ベイシックを品種改良して作ったさまざまな竜であり、バンベックもカーコロもこれらの竜を配備するが、惑星エーリスには再びベイシックの襲来が迫っていたのだ……!
 竜を品種ごとに「金剛」「阿修羅」「羅刹」などと訳しているのも素敵ならば、世を捨て洞窟で静かに暮らしている(とされる)「波羅門」一族の不思議な存在感と最後のあられもないブチ切れも大変に素敵である。エーリスが暗君丸出しで、その側近が徐々に明らかに疲れて来るのも面白い。そして、竜を駆る人vs人を駆る竜、という対比の妙はもちろん特筆すべきところである。長編としては非常に短い作品だが、とてもカッコいいガジェットに溢れており、ひょっとすると自分たちが宇宙最後の人類ではないかという終末的な雰囲気が作品の雰囲気を決定付けているように思う。SFとしては「科学」の要素が少ないタイプに属するので、未来社会の超科学を見たい人には向かないかも知れないが、手短にまとまっていて面白いのでおすすめしておきます。続編もなくあっさり終わるのも、この作品に関してはこれで正しいのだろう。