不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

銀河北極/アレステア・レナルズ

銀河北極 (ハヤカワ文庫 SF レ 4-4 レヴェレーション・スペース 2)

銀河北極 (ハヤカワ文庫 SF レ 4-4 レヴェレーション・スペース 2)

 レヴェレーション・スペースを扱った短編集の(現時点における)完結編である。5編を収録しているが前作の『火星の長城』と若干趣を異にし、ワンアイデアで引っ張る作品はあまりない。あえて言えば、見世物小屋におけるホラー・幻想要素が強い「グラーフェンワルダーの奇獣園」は、宇宙SFと意識せずとも楽しめる。しかし他の作品は舞台が宇宙であることを実感させ、特に最初の「時間膨張睡眠」と最後の「銀河北極」は、光速を超えることができないという設定をしっかりと活かして物語を設計している。「銀河北極」の方はこれに加えて、《レヴェレーション・スペース》宇宙史においても重要な設定が関係し、壮大なスケール感を実現している。『ソラリス』タイプの海がある惑星が100年振りの宇宙船を迎える「ターコイズの日々」、戦争犯罪人を追って廃病院宇宙船に潜入する「ナイチンゲール」も、ドラマティックな展開が楽しめて水準以上。
 というわけでおすすめの一冊だが……作品の密度がどれもこれも少し薄い気がしてならない。『火星の長城』と比べてアイデア勝負に出ていない分、登場人物が薄っぺらいことが目立ってしまっている。また、たとえばジョージ・R・R・マーティンの《タフの方舟》シリーズ辺りであれば、「グラーフェンワルダーの奇獣園」「ナイチンゲール」はもっと手短に、より鮮烈に書かれたようにも思われ、正直不満が残った。「ターコイズの日々」も人によってはもっと完成度が上げられたはずだし、「時間膨張睡眠」「銀河北極」にも同じ弱点が付きまとう。基本的には面白い要素が多々詰まっているのだが……小説とは、そして読書とは、真に微妙なものなんですなあ。