不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

凶鳥の如き忌むもの/三津田信三

凶鳥の如き忌むもの (講談社ノベルス)

凶鳥の如き忌むもの (講談社ノベルス)

 怪奇作家・刀城言耶は、瀬戸内にある鳥坏島の、巫女による秘儀を取材しに行く。部外者である刀城と、学生の北代瑞子をオブザーバーとして、村落の有力一族の若者数名らが秘儀の成就を見守る使命を帯び、島に渡る。ところが儀礼中に、巫女の朱音が消失してしまう。これは18年前の秘儀の際現れたという、《鳥女》の仕業なのか……?
 本格ミステリ+民俗ホラー。ただし、『厭魅の如き憑くもの』に比べ、ホラー色は退潮しており、代わりに、消失トリックを鳩首検討するシーンのように、本格ミステリにありがちなシーンが多々挿入される。結果、『厭魅』に顕著だった、この世ならぬおどろおどろしい情感は鳴りを潜め、全体として比較的スマートな印象さえ受けるのはなかなか興味深い。そして真相は、厳粛な雰囲気に包まれつつも、よくよく考えると愉快だ。
 シリーズ前作とは若干肌合いが異なるものの、これはこれで十分楽しめる本格ミステリ。個人的には、『厭魅』における民俗ネタの過剰な盛り込みに特徴を見ていただけに、やや肩透かしを喰らった気分だが、『凶鳥』の方を好む人も多いだろう。ファンにはお薦めです。