不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

嵐の通夜/ロザリンド・アッシュ

 エリザベスは、大規模な農園を営む実家(多分ジャマイカ)に帰省した。実家の両親は既に亡く、農園主は我侭な双子の兄トム(独身)で、親族は他に気が狂って塔に閉じ込められている伯母くらいしかいない。とはいえ、黒人の下作人たちから黒魔術師だと畏怖されている女中頭ナン、ドイツ系の移民の子孫である使用人モーリス(ベスと同年代)も、ベスが幼い頃からいるメンバーではあった。しかし、帰省したらすぐに嵐がやって来て、ベスは家族や使用人たちと、不安な一夜を過ごす……。
 凶暴な嵐の描写と、そこから醸し出されるホラーな雰囲気は、なかなか乙なものである。癖のある登場人物が大挙して登場し、変な言動をとりまくるのも楽しい。エリザベスがかつて抱いた、従兄エドワードへの淡い想いも読ませる。しかし、緊迫感が薄らぐ瞬間が散見され、途中で展開が間延びしているようにも思われた。スーパーナチュラルな要素も、露出が不十分で、あまり効果的ではない。台風銀座に住む者として、嵐があんまり怖くないというのも大きいかも。
 というわけで、面白くないわけではないが、取り立ててお薦めすることも躊躇われる作品。外れではないので、興味のある方はどうぞ。