不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

泰平ヨンの航星日記/スタニスワフ・レム

 《泰平学》なるよくわからない学問の基本文献として、泰平ヨン自らの手による航星日記が14編収められている。内容は完全に宇宙版《ほら吹き男爵》であり、《吾輩》という一人称による、基本的にはバカSFだが強烈な皮肉と風刺が横溢した短編集。
 ロボットが支配権を確立し人間が放擲される星に潜入する「第十二回の旅」、歴史改変計画のチーフとなって未来に行きまず太陽系に惑星を作るところから始める「第二十回の旅」、進化した文明における究極的宗教を描く「第二十一回の旅」、泰平が自らの家系を語るが滅茶苦茶になってしまう「第二十八回の旅」辺りが特に印象的だが、いずれにせよ、濃度がとんでもないことになっており、1ページ1分は確実にかかる。こんなバカSFによくぞここまで、という圧倒的な風刺深度だ。レム自身による挿絵もアホ臭くて素晴らしい。レム大好き人間は必読。