不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

スラデック言語遊戯短編集/ジョン・スラデック

 超シュール。とにかく意味不明な作品が連発される。しかし、恐らく作家は自分が何を書いているか明晰に把握しているであろう感じが堪らない。誤解を恐れずに言えば、謎々の小説化。後ろに周到な計算が張り巡らされていることは間違いないが、答えは示されない。読者は頑張って自分で探すしかないのである。浅暮三文には『ぬ』という傑作があるが、これを遥かに凌駕し、ゆえに必然として更にわけがわからなくなった、と言えば良いだろうか。
 もっとも象徴的かつわかりやすいのは、「人間関係ブリッジの図面」。最初のうちは、「バブリング創世記」でも始まったのかと思うくらいの無味乾燥ぶりだが、《これまでの経緯を紙に書いて謎を解こうとしているうちに、アンドルーズは自分の会った人々同士の関係が面白い図表にそれはいくつか支柱の足りない橋の形になったのだ》というご無体極まる一文とともに、作品のバカバカしい創作動機が炸裂し、読者は圧倒されるしかないのである。
 他の作品も、情感等には絶対任せず、あくまで理知的に全てを制御した意味不明な作品が続く。多重鉤括弧により構成され、鉤括弧の各階層で違う意識レベルの話が進む「マスタープラン」。密室殺人に関する実にシュールな思考と状況が描かれる実験精神に溢れた「密室」。物語や小説で(作者が)遊ぶことの何たるかを示して余りある「十五のユートピアの下に広がる天国」「いなかの生活情景」「非12月」「メキシコの万里の長城」。そして、この前衛的な作品集の最後を締め括るに相応しい「あとがき」……。
 正直全てがわかったとは言えない。決して言えない。何回読んでも私ごとき者には言えない。だが、凄かった。これはそんな作品集である。広くお薦めするには躊躇するが、果敢なる挑戦者が一人でも多からんことを祈る。