不壊の槍は折られましたが、何か?

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百億の昼と千億の夜/光瀬龍

百億の昼と千億の夜 (ハヤカワ文庫 JA (6))

百億の昼と千億の夜 (ハヤカワ文庫 JA (6))

 プラトン、シッダルタ、イエス三者を視点人物として、アトランティス王国も絡めつつ、多様な時空を舞台に神を追求する物語。理系的な側面は皆無であり、ただただ幻想的かつ壮大な情景が繰り広げられ、寄せては返す波のようにたゆとう《世界》のアウトラインを骨太に描き、しかし何も明らかにはされない。そんな感じの物語。
 作者の感受性と想像力が大展開される、非常にカッコいい作品である。若年のみぎりに読めばカルチャー・ショックを受けるのだろう。個人的にはちょっと機を逸した感もあるが、文章は山田正紀以上に肌に合って良かった。もちろん、傑作であることを否定する理由は全くない。この手の作風のSFを代表するものとして、広くお薦めしたい作品である。