まるで天使のような/マーガレット・ミラー
- 作者: マーガレット・ミラー,菊池光
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1983/04
- メディア: 文庫
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ジュリアン・シモンズやエドワード・D・ホックが、ミラーの最高傑作とする作品。人間関係が割とドロドロな田舎町サン・フェリスと、そして表面上静かだが、それがかえって不気味な《天国の塔》が、見事な対象を織り成す。主人公クインを含め、精神状態が結構ギリギリ崖っぷちな人物揃いなのも大変素晴らしい。そしてミラーの筆致は終始あくまで冷静に、文章表現上は決して奇を衒わず、彼らの人間ドラマと、構想した緻密なプロットを、丹念に掘り起こしてゆくのである。
いかにもエンタメめいた爽快さはない。しかし一方で、重厚でも晦渋でもない。鋭く苦い特別な何かが、読んでいる最中も、そして読後もしばらく、我々の喉に(魚の骨の如く)突き刺さるのである。作品がこのような情感を湛えるのはマーガレット・ミラー唯一人であり、彼女の夫同様、ミステリ史に永く名を留めるべき大家であると考える。そして『まるで天使のような』もまた、彼女の傑作の一つであることは間違いない。一般的な人気が出ないのは仕方ないかも知れないが、閑却されて良い人では断じてないのだ。