不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

捜査/スタニスワフ・レム

捜査 (ハヤカワ文庫 SF 306)

捜査 (ハヤカワ文庫 SF 306)

 スコットランド・ヤードは、お膝元のロンドンで、完全に密閉された霊安室等から死体が消失するという怪事が多発していることに気付く。しかも、まるで死体が自分で動いて出て行ったかのような状況なのだ。グレゴリイ警部補は、シェパード主任警部からこの事件の捜査を任されるが、なぜか主任警部は解決不可能性を予感しているかのような態度を微妙に見せる。そして顧問格のシス博士は奇天烈な仮説を立て始め……。
 300ページもない薄い本だが、警察(というか刑事)による捜査を緻密に描き込む。しかし事件は実に奇妙な展開を見せ、結末も実に奇怪だ。ミステリとして評価するには「一応ミステリ」と断りを入れざるを得ない。都会の喧騒がまるで悪夢のように描き起こされているのも非常に印象的で、うなされるような強迫的な雰囲気が終始充満している。
 恐らくここでレムが追求しているのは、いつものテーマ、《理解不能または困難な事柄と人間の隔絶》、《そのような事柄に出会ったときの人間の反応》である。それが先述の、悪夢にうなされるような情感をもって迫ってくるのだ。充実した読書体験になるか否かとは無関係に、読んでいて疲労困憊するタイプの小説である。カフカになぞらえた文章をどこかで見かけたが、私は『変身』しか読んでいないけれど、なるほど軌を一にする部分もある。
 色々考えさせられる作品であることは確かで、人間の限界をレムがどこに見据えているか、うっすらと見えて来るようでもあり、非常に興味深く読める。レム・ファンは読んでおいて損はない。