不壊の槍は折られましたが、何か?

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夜の旅その他の旅/チャールズ・ボーモント

夜の旅その他の旅 (異色作家短篇集)

夜の旅その他の旅 (異色作家短篇集)

 享年38歳というのだから夭折と言っても間違いではないチャールズ・ボーモントの短編集。奇妙な味付け系としてはオーソドックスな作風ながら、登場人物の動きが心もち情熱的な作品が多い。地の文のテンションも高く、じっくり読む豊かな味わいというものは薄い反面、勢いがあってさくさく一気呵成に読める。どちらが良いというわけではなく、ボーモントの特徴と捉えて楽しむべきだろう。
 個人的には、新人闘牛士の話「黄色い金管楽器の調べ」、サラリーマンの虚しさが胸に迫る「鹿狩り」、老マジシャンがちょっとやるせない「魔術師」、タイムマシンで父親を殺しに行く「お父さん、なつかしいお父さん」、権力を投げ出したい人々を描く「かりそめの客」、ユーモア溢れる性技話の「性愛教授」、死と隣り合わせであるレーサーの人生の一コマを淡々と描く「人里離れた死」、人種差別に絡む「隣人たち」、音楽へのこだわりが肺腑を抉る「夜の旅」辺りがお気に入り。
 シンプルであり読みやすいので、特に構えなくても良いのがありがたい。自然体の《愉しさ》を備えているので、大長編や難解な小説で疲れた人は清涼剤としてどうぞ。