不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

コンピューター・コネクション/アルフレッド・ベスター

 天災や不慮の事故等々で死にそうになった人間から、ごく稀にその体験によって《充電》され、不死人となる人間が出る。不死人は、(首を刎ねられるといった、取替えしのつかない殺され方で)殺されるか、レプサーに罹患して半世紀ほど長患いしないと死ねない。そして不死人たちは、太古の昔(最年長者はネアンデルタールまあ喋れないんだけどな!他にも有名人が大挙して登場します。お楽しみに!)から互いに情報を交換しながら生きていた……。
 さて、17世紀に火山の噴火で不死になったギグは、有能と認めた人物を一度殺して不死人の仲間にしたがっていた。そして遂に彼は、冥王星有人飛行を地球から指揮する科学者ゲス博士をその資格ありと認める。冥王星飛行計画は失敗を遂げ、その発表のさなか、ゲス博士は癲癇の発作で死んでしまう。ギグと仲間たちは、そそくさと死体に事後処置を施し、不死人として彼を甦らせることに成功する。だが、何と彼は巨大エレクトロ・コンピューターと同一化してしまったのだ! エレクトロの支配下にある機械類は、一斉に不死人に反抗し始める。というわけで、不死人たちは団結して、ゲス博士をぶち殺そうとするが……。
 もうやりたい放題。大まかなストーリーは以上のとおりだが、ベスターは最初から最後まで凄い勢いでまくし立てる。ギグの恋愛、養女との交流、不死人間の友情がエピソードとして語られるが、これらを語る際であってすらベスターの筆は全く《落ち着き》といったものを見せない。作者が考えられる限りのガジェットや手練手管を、滅茶苦茶にひっくり返し、投げ飛ばし、引っ掻き回し、場合によってはガラクタのように粉砕する。しかも文章も文法など頭から無視、勝手に言葉さえ作って流し読むだけでもうお腹いっぱい、いやそれどころか眩暈さえする。とにかく全編ギラギラした文章で綴られ、空気が凪ぐ瞬間は、一瞬たりともない。読者は酔うか拒絶するかしか選択肢がない。ある意味小栗虫太郎を思い起こさせるが、あちらは不気味に陰気であり、体温が低下する瞬間がまだあったような気がする。ベスターは、陽性とまでは行かないが、闇や冷気に興味はなさそうだ。カッと熱くなる瞬間を持つ経験は誰にでもあるだろうが、アレがずっと続くような小説だと言っても良かろう。大傑作であると同時に、私のスペックではこれをうまく紹介できない。だいいち読解も不可能だ。凄まじいことだけはヒシヒシと伝わってくるものの。
 なお、訳者も、ベスターに律儀に付き合うという神業を見せている。大森望は『コンピューター・コネクション』をオールタイム・ベスト3に挙げながら、訳については改訳を望んでいるが、いやー、これは当時のこの人にしかできない超絶技巧の名訳ではないか。個人的には、この意味不明の狂った文章・訳は、作品の本質の過半を占めると考える。
 ……とまあ、そんな感じの作品なのである。取り掛かる場合には覚悟を要する。