不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

鉄塔の怪人/江戸川乱歩

 カブトムシに化ける怪人二十面相。この頃になると、もう彼には、世間を騒がせる以外の目的がないんじゃないか。盗難による利潤よりも、間違いなくこういう事件を仕出かす出費の方がでかい。そもそも、昔は彼が盗み出そうとする物(曰く付の宝石とか)自体にもロマンがあったので、コストパフォーマンス等のバランスなんて特に意識せずに済んだんだけどなあ。奇行だけが目立ちますね。あと、怪人二十面相であることも、遂に明智ではなく小林少年に見破られるのも無様。最後に明智が相手をしてくれることだけが救いだろう。
 物語としても、締まりのない冒険譚だ。これは要するに、主人公が誰なのか不分明であることが大きい。メインの登場人物を確固と据え、その視点を動かさずに持って行けばまとまりも出て来ようが、作者は誰が冒険しているのかに構わず、活劇のシーケンスをばらまくだけ。これでは話が雑然としてしまう。もうちょっと何とかならなかったのか。
 つーかそもそも、乱歩にやる気ないんじゃないでしょうか。文章自体精彩欠きまくり。