不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

夜ふかし屋敷のしのび足/コニス・リトル

夜ふかし屋敷のしのび足 (創元推理文庫)

夜ふかし屋敷のしのび足 (創元推理文庫)

 気ままなホテル暮らしをしているカリー・ドレイクに、友人のセルマが助けを求めてきた。別居中の夫アラン・バートンの手に、自分が他の男性に出したラブレターが渡ってしまったというのだ。ついては偽メイドとして夫の屋敷に入り込み、このラブレターを回収してきてほしいというのだ。面倒くさいことこの上ないが、前から欲しかった車をやると言われたカリーは、エレン・マクダビシュと名を変えてバートン邸に潜入する。しかし家事などろくにしてこなかった人間にメイドがまともに務まるはずもなく、態度もなっていないと住人たちにも使用人仲間にも大不評。おまけになぜか殺人事件まで起きてしまうのだった。
 完全にコメディ・タッチの作品で、主人公が頼まれる→屋敷に出向いて雇われる→居着くという序盤の流れと細かいエピソードからして滑稽な味わいがあるのだ。途中の展開もなかなかすっきりまっすぐというわけにはいかず、ストーリーの直線的展開はいかにもコメディといった感のある事態紛糾や会話中断によって阻害されている。また、ミステリとしての要素も種々雑多(例:人間のものではない奇怪な足跡)であり、作者が何を求めているのかが、読んでいる最中はなかなか伝わってこないのである。
 というわけで、端整な本格ミステリを期待する向きには厳しいかも知れず、その度合いは『記憶をなくして汽車の旅』よりも更に甚だしい。しかし伏線はしっかり回収され、そこまで綺麗でも構造性・複雑性で魅せたりもしないが、それなりに納得できる形で解決は図られるため、一定の水準は満たしていると評価したい。何より、主人公のカリーは正直高慢で共感できないのだが、彼女が巻き込まれるシチュエーションと、それに対する彼女の反応は、読者を楽しませてくれる。高慢な奴が頓珍漢なレスポンスを示していたら嗤えたりしませんか? というわけで、そこまで強くではないが、軽い海外ミステリを読みたい人にはおすすめしておきたい。