不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

夢見る黄金地球儀/海堂尊

夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア)

夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア)

 1988年全国の自治体にばら撒かれた「ふるさと創生基金」で、桜宮市は黄金をはめ込んだ地球儀を制作、水族館に展示した。そして四半世紀後の2013年。発明狂の父親に町工場で振り回される平沼平介(30代前半)は、8年振りに再会した旧友ガラスのジョーから、黄金地球儀強奪計画を持ちかけられる。
 海堂尊が初めて医療とは無関係の小説を上梓した。とはいえ舞台は例の桜宮市で、2013年の未来を舞台としており、病院も出て来ることは出て来る。キャラクターも一部に顔を出している。しかし市の幹部が関西弁を喋っていたり、ギャグとしか思えないようなイベントが多々生じるなど、どこまで本気で桜宮市サーガと絡めるつもりなのかよくわからない。というか、2013年までに桜宮市サーガ正編の幕を下ろす気なのだろうか。
 作品内容は、非常に軽妙なクライム・ノベルである。破天荒な犯罪計画(金塊強奪)と、ユーモラスな会話が楽しめ、スピーディーな展開で一気に読ませる。良くも悪くも荒唐無稽な辺りが好悪を分かつだろうが、医療から離れても水準を行く娯楽小説が書けることを実作をもって証した意義は大きい。ただし、2013年の三十代半ばが交わす会話としては、持ち出される実在の事物のジェネレーションが上過ぎるのは気になった。70年代後半〜80年代初頭に生まれた人と、作者ご自身のジェネレーションを混同されているのではないか。