不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

高い窓/レイモンド・チャンドラー

Wanderer2005-11-27

 裕福なマードック未亡人から、彼女息子夫婦の離婚とコイン紛失事件の調査を依頼されたマーロウ。しかし少々様子がおかしい。夫人はやたら尊大だし、彼女の秘書は情緒不安定だし、息子はどっか行ってるし、何か変な奴には尾行されるし……。
 超久しぶりのチャンドラー。マーロウ以外の人物が弱々しい(影が薄いわけではないが)。また、ミステリ的な構造は堅実ではあるのだが、ロスマク級のツイスト、或いはこれと等価交換できるようなミステリ上の売りがない。従って、読むに当たっては、マーロウの言動に魅力を感じられるか否かが重要な焦点となる。切れの良い文体をベースに、マーロウが粛々と気障な言葉をちりばめ、でも実はいい奴だったりする様を、どう捉えるのか。これこそ、チャンドラーの読者に突き付けられる問題なのだ。私は何の抵抗もなく楽しめた。最近、こういう小説の良さがわかってきたような気がする。『長いお別れ』を読んだ頃は激怒したのになあ。私も老けました。『長いお別れ』、再読しようかな。
 というわけで聖典だが、若年層への無理強いは不毛かも知れない作家であり、作品である。