不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

褐色の街角/マルコス・M・ビジャトーロ

褐色の街角 (創元推理文庫)

褐色の街角 (創元推理文庫)

 ナッシュヴィル署の殺人課に配属されたロミリア・チャコンは28歳のラティーナである。夫と死別し、彼女は母エヴァと3歳の息子セルヒオとの3人での生活を支えねばならない。そんな彼女が最初に担当したのは、新聞記者ディエゴの変死事件であった。彼は死の直前、麻薬犯罪を追っていたらしく、ロミリアは町の有力者テクン・ウマンが黒幕ではないかと疑う。だが現場を再びチェックしたロミリアは、翡翠のピラミッドを発見する。それは、解決済みと思われていた連続殺人鬼が印として残すものだった……!
 各種の証拠を扱う手捌きが非常に丁寧で、推理も堅牢。この部分に着目すれば、十二分に本格ミステリである。もちろん、ド本格と言えるほど強烈なロジックや発想のツイストはないが、油断していると「これって本格じゃん」と結構驚くことになろう。また、ヒロインや麻薬王(彼はロミリアに惚れてしまう!)など主要登場人物の造形も個性的で素晴らしく、ロミリアの人柄がはっきり出た一人称のもと、活き活きとした人間ドラマが展開される。本格と刑事小説の良いところを兼ね備えた、素晴らしい作品といえるだろう。
 なお続編の『殺人図像学』は、捜査と推理の手堅さは後退したが、代わりにロミリア個人の物語が掘り下げられると共に、事件のスケールもアップしている。『褐色の街角』と比べてどちらを評価するかは人それぞれだろう。しかしいずれも面白いし、ロミリアたちの今後が気にならなければ嘘だ。事件もレギュラー陣のドラマも(今のところ)たいへん面白いこのシリーズ、海外ミステリのファンを自称する人物であれば要チェックである。
[rakuten:book:12244043:image:small]