不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

42.195/倉阪鬼一郎

42.195 (カッパノベルス)

42.195 (カッパノベルス)

 題名どおり、マラソン絡み。
 マラソン選手の息子が誘拐され、フルマラソンを2時間12分で走れという脅迫状が届く。息子の命を救うべく、父のマラソン選手は、42.195に挑む……。しかし犯人の目的は一体何?

 作者のご母堂はこの作品を(初めて)絶賛したらしい。そりゃ息子としても戸惑いますわな。遂に誉められたと思ったらこれかい!みたいな。
 いきなり雑談から入ってしまったが、非常に奇妙な本格ミステリ。文章は相変わらずどこかひねくれており、「世の中を皮肉に見ている」なんてのとは一味違う、独特の感性を見せてくれる。ただし作者の本気度は『無言劇』の方が上だと思う。あそこで見せてくれた、奇態なネタと作中のセンスの見事なマッチングは、《倉阪鬼一郎しかできない!》感に溢れていた。しかし今回は、随所に光るものはあるが、光りっ放しだった『無言劇』には必ずしも及ばない。奇態なネタは前振りがあるので予想できるが、それでもなお、明らかにそこだけ雰囲気が違い、浮いてしまう。

 本格としては悪くない出来栄え。しかしこの人ならもっとできたはずという思いは絶ちがたい。