不壊の槍は折られましたが、何か?

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十人の戒められた奇妙な人々/倉阪鬼一郎

十人の戒められた奇妙な人々

十人の戒められた奇妙な人々

 《十戒》に沿って戒律を課せられた人々(十名)が、それを犯してしまい、破滅に至る短編集。ブラック・ユーモアに満ち溢れた作品集であり、その味わいは『笑うせぇるすまん』に通じる。とはいえ欲望に負けて禁忌に触れるのではない。彼らはほとんどの場合、やむを得ないか戒律を徹底したが故に、因果応報とは無縁のところで破滅に陥る。哀愁さえ漂う時があってちょっと驚いた。ここが件の漫画(のイメージ)とは違うところである。ぬいぐるネタや将棋ネタが非常に活き活きしているのは、この作家らしい。

 恐らくだが、『無言劇』『42.195』よりも、この作品が倉阪本来の持ち味、ということになるのだろう。変な作品ではあるが、文章に味があるのは素晴らしい。また、持ち球の多くない作家だと推測されるだけに、自分の使える《道具立て》を全て並べたような、ある意味出血大サービスな空気も好ましい。黒がかった製本も印象的、何はともあれこの作家への入門には適していると思う。

 最後に一言だけ。《十戒》でこのオチは、間違ってこそいないが、若干ずれているように思う。そのため蛇足臭を嗅ぎ取ってしまったのは、とても残念である。絶望的にして骨の髄まで後ろ向きなラストは、個人的に大好きなだけに。