不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

呪文字/倉阪鬼一郎

呪文字 (光文社文庫)

呪文字 (光文社文庫)

 死期の近い作家が、憑かれたようにエッセイを書く物語。このエッセイ部分が実に真に迫っており、ほとんど狂気に達するような熱気を感じさせる。他の部分、つまりその作家の生活を描く部分は、この作家にしては普通……と思いきや、袋綴じでやってくれましたね。嗚呼そんなネタだったとは。脱帽してもいいですか?

 以下、既読者向け。一応ネタバレではありませんが……。
 ネット上の反応は、どうも冷笑気味だ。ちょっと訝しい。というのも、これを某大家TA辺りがやったら、まず間違いなく絶賛の嵐が巻き起こると思うからだ。しかし、いかにもTAがやりそうな仕掛けが施された『呪文字』は、ネタとしてタハハと苦笑を買って終わる。『呪文字』に皮相なスタンスをとるなら、TAのアレとかアレとかにも、ちゃんと斜め上方から皮肉に切り込んだでしょうね。作家の名前からスタンス決めてませんか? 違いますかそうですか。でも、俺としては、TAのコレ系の作品って、小説として《その部分》の文章が明らかに不自然なんで、うまく嵌めた倉阪の方が上手と思うんだけどなあ。直木賞とった後にわざわざやる心意気云々の話でもないと思うし。