不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

play/山口雅也

PLAY  プレイ

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 四短編を所収する。いずれもガチガチの本格ではなく、奇妙な味や幻想が勝っている。『ミステリーズ』『マニアックス』ほどではないものの、山口雅也が思う存分書いた短編集だろう。

 「ぬいのファミリー」
 ぬいぐるみをこよなく愛する外科医の生活を描いた作品。当然のように彼の家庭は崩壊しており、病んだ側面が非常に強調される。そういえば、倉阪鬼一郎は『十人の戒められた人々』でぬいぐるみネタで一編を仕上げていた。そちらと比較すると、同じく病んだ人を描いても、倉阪の方は主人公に視点を設定し、ぬいぐるみに対する愛情を濃やかに描いたのに対し、山口雅也は、視点を主人公の外側に設定して、ぬいぐるみ趣味を気色悪く描いている。結果、奇妙な味の倉阪、ホラーな山口という構図が出来上がっており、色々と興味深い。これは恐らく、ぬいぐるみとの距離感が両者で違うからだろう。

 「蛇と梯子」
 インドが舞台で、妖しげなボードゲームが全てを支配する。エキゾティックな雰囲気が横溢しており、その点でT・S・ストリブリングの『カリブ諸島の手がかり』に感触が近い。話がおかしな方向へどんどん進むため、分けても「ベナレスへの道」のような、幻想味ある短編に親近性を帯びる。ただし、名探偵とか密室とかいった、ミステリの構造に動議を発するような作品ではなく、《奇妙な味》が最優先される。ミステリを期待すると裏切られようが、良い小説であることは間違いない。この「蛇と梯子」をもって『play』の白眉としたい。

 「黄昏時に鬼たちは」
 学生たちと引き篭もりが隠れ鬼で遊ぶ。そこで巻き起こる殺人事件。結構なお手前ではある。あるが、ネタが他の作家とかぶってしまった。で、短編ということ、伏線の張り方等々で、どうしても一段落ちる。引き篭もりへの共感度もいまいち。大人が町中で隠れんぼする(《ネタ隠れ》とかもあり)、という突拍子もない設定を楽しむべきか。

 「ゲームの終わり/始まり」
 某傑作とタイトルもネタもかぶり過ぎており、ちょっとどうかと思われる。達成されたことも、あっちの方が遥かに上かと。情緒や感情・感傷で乗り切ろうとしない辺りは、まさに山口雅也だけれど。

 というわけで、佳作揃いの短編集ではあると思う。ファンにはお薦め。
 それにしても、感想が福井健太氏とかぶり過ぎですな。仕方ないとは思うが。